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東京高等裁判所 昭和50年(行コ)29号 判決 1976年10月20日

東京都荒川区南千住二丁目六番五号

控訴人

寺田光一

右訴訟代理人弁護士

鶴見祐策

石川憲彦

東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号

被控訴人

荒川税務署長

右指定代理人

小沢義彦

真庭博

吉田和夫

中村宏一

右当事者間の課税処分取消請求控訴事件について当裁判所は、つぎのとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が控訴人に対し昭和四三年八月一六日付でした昭和四一年分及び昭和四二年分の各更正処分(審査裁決により変更されたのちのもの)並びに各過少申告加算税の賦課決定処分(審査裁決により変更されたのちのもの)を取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠関係は、次のとおり付加し訂正するほか原判決の事実摘示(別表をふくむ)と同一であるから、これをここに引用する。

事実摘示三2(二)一六行目「所得税」を「同」と改める。

控訴代理人は、次のとおり述べた。

一  被控訴人は、控訴人の所得金額を推計するについて、控訴人と類似する同業者の差益率、所得率によつたものと主張するが、その基礎となる同業者の特定はもとより、その業態、立地条件、従業員数、顧客内容、取扱商品等控訴人の営業と具体的に比較するにたりる事実関係が明らかにされていない。

二  被控訴人は、同業者の所得率によつて一般経費を推計しているが、控訴人が一般経費の内訳を具体的に主張している以上、被控訴人としては、控訴人の主張に対応する形で各同業者の一般経費の各項目の金額を明示して立証すべきである。

三  控訴人は、荒川区内の牛乳販売店のうちで、立地条件、業績、規模ともに同業者と比べて著しく劣つており、やむなく相当の値引きをして売上高を維持せざるをえない状態であつて、差益率とも同業者と比較できないほど低率である。

したがつて、被控訴人が同業者を基礎として控訴人の所得金額を推計したのは、その合理性を欠くものである。

被控訴代理人は、次のとおり述べた。

被控訴人が本件同業者比率の基礎と同業者として抽出選定した者は、本件係争年分について収支実績による所得調査を実施した者であり、その選定方法及び選定の結果からして、選定された同業者は控訴人と立地条件、業績、業態並びに営業規模に類似性があるものというべきであり、被控訴人がこれを基礎として控訴人の所得金額を推計したのは合理性がある。

証拠として、控訴代理人は当審における控訴本人の尋問の結果を援用した。

理由

当裁判所も控訴人の本訴請求は当審における控訴本人尋問の結果を加味して審究するも、なお失当であると判断するものであつて、その理由は次に付加するほか原判決理由の説示と同一であるからこれを引用する。

一、1. 原判決理由二2第四段一行目、同三4(一)九行目並びに一四行目、同(二)第二段四行目、同5(一)五行目並びに一八行目の各「原告本人尋問」の前に「原審及び当審における」を加える。

2. 原判決理由三1第二段六行目並びに七行目、同4(二)第二段八行目、同5(一)二二行目の「原告本人尋問」の前に「原審における」を加える。

3. 原判決理由三3.(一)二行目「3,274,115円」とあるを、「2,771,751円」と訂正する。

二、控訴人は、推計の基礎となつた同業者の特定がなく、営業状態が具体的に明らかになつていないと主張するが、前示のとおり(原判決理由三2)同業者抽出の対象業者、抽出選定の方法が相当であり、その結果が妥当と認められる以上、当該同業者の営業内容をすべて具体的に明らかにする必要はないというべきである。

また、控訴人は、一般経費の細目を主張している以上、それを推計によつて認める場合には、同業者の一般経費の細目を示して、これと比較すべきであるというが、控訴人の一般経費の主張が裏付けにとぼしいものであることは前示のとおりであり(原判決理由三4(二))、経費について特殊の事情のあることを主張立証するのでない以上、同業者の所得率をもつて推計してさしつかえないものと認める。

さらに、控訴人は、荒川区内の牛乳販売店のうちで、立地条件、業績、規模ともに同業者と比べ著しく劣つていると主張するが、その認められないこと前示のとおり(原判決理由三4(一)(二))である。

したがつて、控訴人の主張は理由がなく、被控訴人が本件更正処分において、推計によつてなした控訴人の所得金額の認定は合理的であると認められる。

よつて、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条第一項、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田辰雄 裁判官 中川幹郎 裁判官 尾中俊彦)

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